公共部門で加速する「エージェンティックAI」導入、ガバナンスとデータ整備の遅れに懸念も
Capgeminiが公的機関幹部600人を対象に実施した調査によると、ガバナンスやデータ準備が追いつかないなかでも、半数以上の公共組織がエージェンティックAI(自律型AI)の検討や導入を進めている。専門家は信頼維持のため低リスクな内部業務への適用を促す。

世界各国の政府は、より迅速な行政サービスと目に見える成果を求める国民の期待の高まりを背景に、実験的なAI活用から本格的な導入へと舵を切りつつある。しかし、Capgemini Research Instituteの最新の調査結果によると、組織としての体制整備やガバナンス体制は、技術的な野心に依然として追いついていない実態が浮き彫りとなった。
公共部門の幹部600人を対象としたこの調査では、公的機関の半数強が現在、エージェンティックAI(自律型AI)の検討、試験運用、あるいは本格展開を進めていることが明らかになった。その一方で、責任あるAI(Responsible AI)への取り組みが導入スピードに追いついていると回答した組織は、4分の1未満にとどまっている。
レガシーインフラとデータのボトルネック
業界の専門家らは、この乖離は行政組織における長年の技術的負債に起因するものだと警告する。Capgeminiで公共部門のグローバルインダストリーリーダーを務めるMarc Reinhardt氏は、公的機関が旧式のインフラ、レガシーシステム、相互運用性、そしてガバナンスの問題に長年苦慮してきたと指摘する。多様なデータベースやシステムへの広範なアクセスを必要とするエージェンティックAIの台頭に伴い、これら基盤の近代化は急務となっている。
Reinhardt氏は、強固なデータ基盤の欠如こそが、エージェンティックAIを拡大展開する上での最大の障害であると分析する。さらに、多くのレガシーシステムはAPI経由でアクセスされることを想定して設計されておらず、自律型ソフトウェアエージェントがシームレスに連携することを阻んでいるという。
ロンドンを拠点とするTony Blair Institute for Global Changeで「AI for Government」プログラムを率いるLaura Gilbert氏も、主要なボトルネックとなっているのはAIモデルそのものではなく基底システムであると同調する。また同氏は、公共機関全体で「能力と自信」の格差が広がっていると強調。外部の技術力への過度な依存により、ソフトウェアエージェントが自律的に行動する際の安全性評価、実現可能性の検証、説明責任の確立などを公務員自身が適切に行えない状況に陥っていると警鐘を鳴らした。
やり直しのきく「ツーウェイドア」型ワークフローによるリスク低減
イノベーションと安全性のギャップを埋めるため、専門家は各国政府に対し、AIエージェントが単独で実行できる判断、アクセス可能なデータ、そして人間の担当者に制御を戻すべきタイミングを詳細に定めた明確なガードレールを設けるよう助言している。
初期の導入対象としては、仮に誤りが発生しても市民への悪影響が極めて小さい、反復的かつ大量の内部業務が最適とされる。Reinhardt氏は現実的な着手点として、事務処理ワークフロー、文書処理、案件管理、定型的な承認作業、社内ITプロセスなどを挙げた。
Gilbert氏も同様に、受領案件のトリアージ(優先順位付け)、通信や問い合わせの管理、証拠資料の要約といった低リスクな環境への適用を提唱している。これらのタスクは目に見える時間削減効果をもたらすだけでなく、エラーが発生しても国民の信頼を損なったり市民への結果を直接変えてしまったりすることなく容易に修正が可能な「ツーウェイドア(後戻りできる扉)」として機能する。
運用のガードレールにとどまらず、導入範囲が広がるにつれてAIシステムをテスト・検証・統制できるよう、意思決定者の身近に高い技術力を持つ小規模な内製チームを組織内に配置すべきだという点でも、専門家らの意見は一致している。


